世界と調和するものづくりへの共感
Chapter

01設立当時の話
−Spiberについて、設立当時のお話と事業内容を教えてください。
私と菅原(現取締役兼執行役、先行技術開発担当)は2004年から慶應義塾大学先端生命科学研究所で研究を進めていました。Spiberを設立したのは2007年です。当時、事業の柱にしようと思っていたテーマはクモ糸人工合成の研究と、DNAに情報を書き込むという研究でした。DNAに情報を書き込む技術自体は完成し技術の特許も取得しているので、いつでもライセンス可能な状況ですが事業化はしていません。他にも取り組みはじめてはうまくいかなかったテーマがたくさんあります。その中で唯一生き残っているテーマがクモの糸。夢の素材と言われていたクモの糸を人工的に作ろうと研究を始めたのですが、途中からこの技術がもっと広い範囲で使えることに気がつきました。クモの糸はタンパク質でできているのですが、人間の体の筋肉、髪、爪、皮膚などもタンパク質でできています。タンパク質は20種類のアミノ酸から形成されていて、このアミノ酸の配列によって様々な特徴や物性を持つタンパク質が存在します。つまり、タンパク質をデザインできれば、いろいろな材料として使える可能性があるのです。クモの糸はイメージしやすいので、初対面の方には「人工のクモ糸を作っています」と説明することが多いのですが、実際はクモの糸だけではなく、素材としてタンパク質をテーラーメイドで自由に設計し、安価に、環境負荷も低く作れるようにするための基盤技術を開発しています。

02どうしてクモの糸なのか
−クモの糸に着目したきっかけは?
研究仲間との飲み会で、直径1cmのクモの糸で巣を張ることができればジャンボジェット機をキャッチできるという類の話も含めて、クモの糸はすごいらしいという話になったのが最初です。しかし計算するとあながちあれは嘘でもないんですね。論文などでも発表されているのですが、実用化されているのかということになり、研究室に戻り、クモと書いてある本とクモの糸関係の論文をできる限りかき集めました。するとやはり実用化はされておらず、クモの糸のすばらしい性能も改めてわかりました。「じゃあ、やってみよう」と、すぐにクモを採りに行き、糸を調べることから始め、調べるほどに、その性能と可能性について思いを馳せるようになりました。世の中にある「性能がいいもの」というのは、ほとんどが石油由来で化学的な物質で、天然かつ性能がいいものはあまりないのではないか。直感的に、石油を使わずにそんなにすごい素材が作れたら世の中変わる、と思いました。
03ゴールドウインとの繋がり
−ゴールドウインとの関係が始まったきっかけは?
微生物分野で非常に有名な教授がいまして。学会でその教授と仲良くなり、ある繊維会社の役員の方を紹介していただき、さらにご紹介いただいいたのがゴールドウインの渡辺さん(副社長)でした。ゴールドウインのものづくりに対する姿勢やものの考え方が自分たちとものすごく近いと感じました。私たちは素材開発をやっていますが、ベースにはいろいろな問題意識があります。戦争や紛争の本質的な原因になっている環境や食料、エネルギー問題といった人類の未来にとって本当に重要な地球規模の問題を解決していけるような事業をしていきたいと思っていました。その手段として素材開発や事業をやっているという意識です。ゴールドウインもとにかく服が売れればいいというわけではなく、わたしたちと同じように社会課題に対する深い問題意識を持っていると、渡辺さんとのコミュニケーションを通じて強く感じました。だから素材の実用化を進めていく上で、こういう方と開発していきたいと思いました。わたしたちにとって商品開発は未知の領域なので、ものすごく勉強させていただいています。2015年に初めてムーンパーカのプロトタイプを見た時は、純粋にカッコいいと思いました。自分が想像していたよりもはるかにすばらしい出来だった。実際にプロトタイプを作り込んでいくときも、一切の妥協がない。大変ですが、だからこそ本当にいいものに仕上がっていくのだと確信しました。

04これからの展望
−今後についてはどのような展開を想像していますか?
タンパク質でできている素晴らしい素材はクモの糸以外にも地球上にたくさんありますが、その中の多くをわたしたちの技術で使いこなしていけると思っています。2017年9月で会社設立からちょうど10年経ち、次の10年は研究開発ではなく事業フェーズになると考えています。これまでの研究開発の成果が実際に世の中の役に立ちはじめることを想像すると、とても楽しみです。 いい服とは、違和感がなくて自分自身と調和している服だと思います。機能や触り心地など、物理的な違和感もあれば、デザインや色など、精神的な違和感もある。物理的にも精神的にも自分自身と調和できて、かつそれが、社会や地球環境に対しても悪い影響や負荷を与えない、つまり世界と調和する服づくり。その考え方は、ものづくりを一緒にしている開発チームの方達とも共有できているので、きっと近い将来実現できると思います。
2017年インタビュー収録
- Interview date2017
関山和秀 Kazuhide Sekiyama
2001年慶應義塾大学環境情報学部入学。同年9月から先端バイオを研究する冨田勝研究室に所属。2004年9月よりクモ糸人工合成の研究を開始し、博士課程在学中の2007年9月にSpiber(株)を設立。持続可能な社会の実現に向け、原料を枯渇資源に頼らない構造タンパク質素材の産業化を目指す。
翔ぶ意識、ロマンを求めよ
AMBITION
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株式会社ゴールドウイン 西田明男
スポーツを通じた
社会への貢献いいなと思うブランドをもっともっと良くしようと。相手の意図することを理解して、それをしっかりと商品に落とし込む。相手が予想している出来栄えよりも、もっと突き詰め、思いを込めて作ることは、今でも変わりません。
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プロスキーヤー 三浦雄一郎
テクノロジーが広げる
挑戦への可能性人間は不可能なことを可能にしながら進化してきました。その延長で、常に未知のことにチャレンジし続けて欲しい。まだ人間の知らない様々な場所や謎など、無限にチャレンジする要素を見つけ、不可能を可能にして欲しいですね。
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株式会社ゴールドウイン 渡辺貴生
自然に学び、未来を想像するものづくり
想像力というのは簡単に言えば、今とは異なる未来の姿やまだ見た事のないものを頭の中で思い描く力だと考えています。自分がTHE NORTH FACEから学んだ一番のことは想像する力です。知識には限界がある一方で、想像力は世界を変える可能性が無限に秘められており、学んできた様々な物を組み合わせて、新しい価値に転換することこそが本当のメーカーの仕事なんじゃないかと考えています。