DEDICATION TO DETAIL

さらに進化した機能を実現、
史上初の再生ポリエステル繊維ジャージー

CANTERBURY
JAPAN NATIONAL RUGBY TEAM 2023 New Jersey

New Jersey with Higher Performance

1997年、日本ラグビーフットボール協会(JRFU)のオフィシャルパートナーとなったカンタベリーは、1999年から7大会連続で日本代表ジャージーの開発・製作を担当してきた。ラグビー日本代表2023の新ジャージーは、ファンから回収したポリエステル100%ウエアをリサイクルして生まれた再生ポリエステル繊維を採用。さらに“Made to BE TOUGH”をコンセプトに掲げ、ラグビーに求められる耐久性と、相反する軽量性、快適性、運動性との両立を追求してきた。史上初の再生ポリエステル繊維、さらに進化した機能を実現した日本代表ジャージー製作のストーリーとは――。

Interview withChief Development Manager, JAPAN NATIONAL RUGBY TEAM 2023 New Jersey / General Manager, Canterbury Dept.石塚 正行

コンセプトは「Made To BE TOUGH」。ファンの思いを織り込んだジャージーで再び「ONE TEAM」に

ISHIZUKA'S VIEW 01

コンセプトは「Made To BE TOUGH」。
ファンの思いを織り込んだジャージーで再び「ONE TEAM」に

ラグビー日本代表2023新ホームジャージーの開発コンセプトは「Made To BE TOUGH」。もともとCANTERBURYはラグビー競技と共に歩み、発展してきた歴史があり、「The World's Toughest Active Wear(世界一タフな活動着)」を理念に掲げ、モノづくりに真摯に向き合ってきました。
ラグビーにとって重要な要素である「タフ」は、今の時代に求められるサスティナビリティにもつながり、CANTERBURYのDNAにも根付いている部分です。日本代表ウエアの開発にあたり、キーワードとなる「タフ」をもう一度作り上げていこうと、このコンセプトを掲げました。
ここでいう「タフ」は、身につける物としてのタフさと、選手の心を支えるタフさがあります。つまり、ラグビージャージーとしての強さと、選手が勝利に向かって挑む原動力となるファンの想い――その2つの強さを合わせ持つウエアを開発することで、日本代表の勝利に貢献したいと考えました。

2019年のワールドカップ日本大会で、日本代表は史上初のベスト8進出を達成。まさに「ONE TEAM」で日本ラグビーの歴史を塗り替えました。ラグビーの精神性を含めた素晴らしさが多くの人に伝わったことでラグビーの価値が上がり、子どもたちのファンも増えました。大会のオフィシャルサプライヤーを務めたCANTERBURYとしても、さらにラグビーを通して社会貢献をしていきたいと考えていました。ところが、2020年3月からコロナ禍に見舞われ、イベントが中止になるなど自粛の日々が続き、せっかく盛り上がりつつあったラグビーコミュニティが分断してしまいました。
2023年のフランス大会に向け、また皆が「ONE TEAM」となれるようにと開発したのが、ファンの皆様から回収した衣類を用いた史上初の再生ポリエステル繊維ジャージーです。

背景の一つには、アパレル産業で大きな課題とされている製品の大量廃棄問題があります。ゴールドウインとしても、サスティナブルなモノづくりに積極的に取り組む中で、環境配慮型の製品として、再生ポリエステルを用いたジャージーにしたいと考えました。
ファンの方たちの衣類を回収して原料化し、日本代表選手が実際に着用するジャージーに使用することで、選手とファンをつなぐことができる。ウエアを通して真の「ONE TEAM」となれるのではないか。再びつなぐ、という思いを込めて「Re ONE TEAM」というストーリーを描きました。
衣類の回収プロジェクトは、2022年7月、直営店と国立競技場(対フランス代表戦)で行いました。印象に残っているのは、中学や高校時代の部活のユニフォームなど、大事にしていたり思い入れのあるウエアを持ってきてくださる方が多かったこと。ファンの方々が開発コンセプトを理解してくださっていることが嬉しかったですし、ウエア開発者としての責任を感じて、身が引き締まる思いがしました。

前回大会は自国開催でしたが、2023年は遠く離れたフランスでの開催になります。ジャージーに織り込まれたファンの思いが力となり、日の丸を背負ってプレーする選手たちの後押しになると信じています。
今回のジャージーが、代表選手たち、さらには日本を一つにするきっかけとなって欲しいですし、着用する選手たちは、世界中に感動を与えてほしい。再び日本が「ONE TEAM」となり、喜びをわかちあえたら嬉しいですし、勇気や喜びを与えられるような証になってほしいです。

開発チームが挑んだ、ラグビーの要求性能解決へのアプローチ。
さらに進化した日本代表ジャージー

ラグビー日本代表2023新ジャージー製作にあたり、開発メンバーたちは、まずラグビーで求められる要求性能を洗い出すことからスタートした。さまざまな項目が上がった中で、今回は「生地」「衣服の形」「加工(滑り止め等)」「縫製仕様」で解決するというアプローチをとっている。これらの観点を軸に、さらに進化した代表ジャージー開発についてメンバーが語る。

再生ポリエステル繊維を採用しながら、耐久性と相反する生地の機能を実現

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再生ポリエステル繊維を採用しながら、耐久性と相反する生地の機能を実現

実際の代表ジャージー開発のプロセスとしては、まずは、2019年の開発モデルをベンチマークに、さらに耐久性をいかにアップさせるか、そしていかに軽量化を図るかを考えていきました。
2019年モデルは選手たちから高い評価を受けましたが、それまで取り組んできたことをただブラッシュアップするだけでは限界があるので、毎回、原料から見直すところから始めています。
衣類回収では1,266枚のウエアが集まりましたが、すべてのウエアを原料化し、選手のジャージーに使用するというのは、こだわったところです。ファンの方々の思いも背負って開発を進めていきました。
ラグビーは激しいコンタクトスポーツです。開発にあたり、特に大きな指標となるのが耐久性。さらに求められるのは、軽量性、快適性、速乾性。例えば、耐久性をアップさせようと思えば、太い糸を使用し重厚な生地にすればいいわけですが、そうすると当然、重くなるし、生地の乾きも悪くなる。耐久性を求めながら、相反する軽量性、快適性、速乾性をどう実現させるのか。両立をいかに図るか、という部分は、永遠のテーマですが、今回の開発でも大きなポイントでした。

さらに、環境配慮型の原料で糸、そして生地を作るのは、高いハードルでした。実際に回収したリサイクル原料は、選手に供給するジャージーに用いるので、試験で使うことはできません。想定した糸を平行して作りながら、外部の匠の方とも何度も話し合いながら、求める性能を満たす製品を実現させるべく、一つずつハードルを越えていきました。

今回、フォワードとバックスで経編と丸編みと縫製も異なっています。例えば相手とぶつかり合うことが多いフォワードのポジションは、身体を保護するホールド感や耐久性に優れた経編の生地を採用。フィールドを走りまわり、動きやすいストレッチ性が求められるバックスのポジションは、丸編み。それぞれのポジションに適した生地を2つの工場で開発しました。
究極の理想は、選手一人ひとりに合わせたジャージーを作ることです。今回の開発では、テックラボの開発メンバーが中心となり、80名を超える選手の体型データを取得しましたが、モニタリングを含め、収集した多くのデータを活用し、さらに進化したジャージーが実現したと感じています。

カラーは、一目で日本のジャージーであることがわかる赤と白。1930年のラグビー日本代表発足時から続く伝統の日の丸カラーに、日本一の山である富士山のご来光を表現したゴールドアクセントを加えています。

デザインは、「ONE TEAM」の象徴でもあった2019年モデルの日本らしさ、精神性を継承しています。デザインコンセプトは「武士道の精神」で、V字のようにみえる赤白のストライプは兜の前立てをモチーフにしています。伝統的な和の意匠を取り入れています。ラグビー日本代表にはいろいろな国籍の人がいて、文化も考え方も価値観も違います。多様性のあるチームを武士道の精神性、誇りを宿したユニフォームが一つにする、という考えです。

身体が大きく見える錯視効果を狙ったデザインは2015年から取り入れているものです。

本番で使用されるジャージにはフランスの国花であるユリの紋章が表現されている

日本代表チームのシンボルを3D化した「3つの満開の桜」のエンブレムは、前回から継続しており、代表選手の誇りを強調しています。

和柄の地紋は、日本の伝統からインスピレーションを受けています。「力・ならわし・縁起」を意味する吉祥紋を生地に描き、勝利を祈願しています。

また、本番で使用するジャージーには、フランスの国花であるユリの紋章を入れ、大会の成功を祈りつつ開催国へのリスペクトの気持ちを込めました。

デザインにもすべてにこだわりがあり、日本代表としてのアイデンティティを表現しています。選手たちが日本を代表して世界で戦うための1着となっています。

完成したラグビー日本代表2023新ジャージーは、「耐久性」はスポーツ基準と比較し、バックスが2.6倍、フォワードが3.0倍、「軽量性」は2019年比でバックス4%、フォワード19%の軽量化を実現しました。相反する機能を実現させることができたのは、社内・社外含めた開発メンバーが同じ目標に向けて熱い思いで取り組んだからこそだと思っています。

Interview withR&D Group, Technology Research Laboratory
木村航太

選手の体型データを取得、新しい形のジャージーへ

KIMURA'S VIEW

選手の体型データを取得、新しい形のジャージーへ

FORWARD FRONT ROW
BACKS

ラグビーの要求性能を満たすためのアプローチの一つ、「衣服の形」において重要視したのが、各ポジションの選手の体型を正確に把握し、ウエアを設計することです。そこで3Dボディスキャナーを用いて選手の体型データを収集することにしました。
できるだけ多くの選手のデータを取得したいと、日本代表選手合宿やリーグワン所属チームの練習場に3Dボディスキャナーを持ち込み、選手の体型を測定しました。80名を超える選手に協力いただき、体型データを取得することができたことで、ポジションごとの平均的な体型や特徴など、多くのことを知ることができました。
ラグビーは15名で行うスポーツですが、それぞれの役割を担うポジションによって、選手の体型も大きく異なります。取得した体型データをもとに、体型分類を行い、複数の代表的なボディを作成し、パターン作成へと展開していきました。

ラグビーの場合、動きやすさと相手選手からの掴まれにくさ、その両立が求められます。ゆとりが小さいと動きにくいし、ゆとりが大きいと相手選手に掴まれてしまう。相反する要求を満たすため、適切なゆとり量を厳密に設計する必要がありました。
そこで最初は身体の形をそのままパターンに展開し、ゆとりゼロのサンプルを作りました。そこから選手へのモニタリングで実際の声を聞きながら、動きにくいところにゆとりを入れていく、というプロセスで開発を進めました。
相反する部分の加減については、予測を立てるのは難しい。実際の選手たちの声を聞かないとわからない部分なので、モニタリングを重ね、選手の要望を満たしたものに近づけていきました。

今回、パターンとしては2種類のジャージーをつくりました。フォワードはスクラムが多く、バックスは走る動作やパスが多いなど、ポジションにより必要とされる動きは異なります。フォワードとバックス、それぞれに合わせたゆとり量を設定しているため、異なる形状のウエアとなっています。
また、生地や仕様も異なり、例えば、フォワードには(スクラム時にグリップ力を発揮する)ナノフロント®が使われていますが、バックスはウエアの軽さを優先しているので、ついていません。

出来上がった代表ジャージーは、2019年モデルに比べて腰やウエストが絞られ、身体にフィットした形になりました。選手の声を反映して動きやすさをしたうえで、ウエア全体としては30%ほど衣服内空間量が小さく設計されたことで、掴まれにくさにつながっていると思います。今回、80名を超える選手の体型データがあったからこそ、新しい形の代表ジャージーができたと実感しています。

Interview withProduct Design Group, RD&D Dept.前田恵梨子

体型データをもとにしたパターン作製。よりフィットするウエアへ

MAEDA'S VIEW

体型データをもとにしたパターン作製。よりフィットするウエアへ

代表ジャージーの開発にあたっては、2019年モデルに続いてパターンを担当しました。パターン作製としては、前回のモデルをベンチマークに、開発メンバーの中で出てきた意見を形にしていきました。そこにさらにモニタリングで選手から出た要望を反映させ、完成形に近づけていきました。
普段のパターン作製と作業は変わらないのですが、一般の方とラグビー選手の体型では異なる点も多く、パターン操作で悩むこともありました。
今回はサイズ展開において、体型データをもとにグレーディングピッチを設定し、よりフィットするウエアを目指しました。
難しかったのは、選手の感覚的な意見をどう修正に反映させるか、という部分ですね。例えば「肩がきつい」という声が出たときに、実際に肩のどこをどう修正すれば改善するのか、ヒヤリングを通して汲み取らなくてはいけない。感覚的な部分を数値化していく難しさはありましたが、そこはチームで話し合いを重ねながら決めていきました。

メンバー全員でより良いジャージーの完成に向けて追及できる面白さがありました。選手から「動きやすい」などの良い意見をいただいたときはやはり嬉しいです。

Interview withProduct Group, Technology Research Laboratory久田涼平

胸部でボールを保持するための滑り止め素材を開発

HISADA'S VIEW

胸部でボールを保持するための滑り止め素材を開発

代表選手がフランスで着用するジャージには滑り止めが加工されている

代表ジャージーの胸部にある滑り止めは、選手がボールを抱えて走るときに滑りにくくするためのものです。実は公式球は4年ごとに変更しているのですが、新しいボールで今までの滑り止めの評価テストを行ったところ、新たに開発が必要だということになり、素材探しからスタートしました。
最初はボールに対して滑り止め効果を発揮する材料を見つけるのが難しかったです。滑り止め材料だけでも、世の中には調査しきれないほどたくさんの数があります。その中から衣服に使えそうな素材を大量に集めて評価してみましたが、良い数値がなかなか出ない。次にボールの形状を調べて、どういう素材なら滑り止めの効果が出るのだろうと仮説を立てて、材料を一から作り始めました。

初期段階での試作品は、グリップ力はありましたが、すぐ壊れてしまいました。しかし、材料メーカーとタッグを組み、要望を伝えたり話し合いを重ねながら、強度とグリップ性を実現するものを開発していきました。
使用する材料の決定後は、その材料を生地にどう接着するかという課題に当たりました。今度はアパレル用の特殊加工をしている企業に相談しました。剥がれにくい形状に加工してもらうのですが、これもすぐにはうまくいかず、いろいろな条件で試行錯誤を重ねました。

開発段階では、実際に選手にも試してもらいましたし、物性テストも何度も行いました。ラグビー経験者の社員が何度もトライやヘッドスライディング動作を行い、耐久性のテストを重ねました。
時間が限られ、さらにデザインの制約もある中で、求める機能の実現に向けて開発を進めるのは大変でしたが、機能、品質ともに自信をもって選手に提供できる材料を開発できたのでほっとしています。

Interview withEngineering Support Group, Production Engineering Dept.戸高圭一郎

選手の着心地に配慮し、細部までこだわった縫製仕様

TODAKA'S VIEW

選手の着心地に配慮し、細部までこだわった縫製仕様

ラグビー日本代表2023新ジャージー開発にあたり、縫製仕様の提案や強度の確認、開発メンバーと連携しながら実際に選手たちのモニタリングを行うときのサンプル製作、また量産に向けた課題や問題点などを抽出して改善する、という部分を担当しています。

縫い目部分は、2019年モデルを踏襲しています。縫い目の肌に当たる部分がフラットになっています。一般的な衣服では、縫い代部分が肌に当たることがありますよね。縫い代があることで肌に跡が残ったり不快に感じることがあるので、そこを改善しています。

また襟の部分も、すべての生地を貼り合わせると硬くなってしまうので、できるだけ風合いを損なわないように工夫しました。パッと見ただけではわかりにくい部分ですが、選手の着心地に配慮して細部までこだわっています。

今回のジャージー開発は、生地やパターンにこだわっており、縫い目はそれをつなぎ合わせる重要なポイントです。縫い目が破れないよう、生地の組み合わせや方向など全ての強度を測っています。抜かりがないよう、強度確認には気を遣いました。前回も高い評価をいただいて実績がある仕様ですが、今回、生地が変更になっているので、強度については一から確認しました。

モニタリングでは、背中や腕の動きについて、選手から細かい意見が出ていたので、最後まで調整を重ねました。モニタリングから改善する期間が短くて大変だった部分はありますが、さらに進化した良いジャージーができたと自負しています。

  • JAPAN NATIONAL RUGBY TEAM
    2023 New Jersey

Credits -
  • Interview withMASAYUKI ISHIZUKA, KOTA KIMURA, ERIKO MAEDA, RYOHEI HISADA, KEIICHIRO TODAKA
  • PlaceGOLDWIN TECH LAB, GOLDWIN TOKYO OFFICE.
  • BrandCANTERBURY
  • PhotoSHINTARO MITSUI
  • TextTAMAKO MATSUDA
  • Interview date2023.5

JAPAN NATIONAL RUGBY TEAM 2023 New Jersey

ラグビーの歴史のそばに常に寄り添うCANTERBURYは、20年以上にわたりラグビー日本代表ジャージーを作り続けてきた。妥協のないモノづくりを追求するテックラボが手掛けた2023年の日本代表ジャージーは、史上初の再生ポリエステル繊維を採用しながら、ラグビーに求められる耐久性と、それに相反する軽量性や快適性を実現。高い評価を得た2019年モデルからさらに進化した1着となっている。