伝統と革新の中で広がるスキーの可能性
From Ski to Sports Lifestyle
ゴールドウイン社のシグニチャーブランドとして、約60年に渡り、ものづくりに真摯に取り組んできたGoldwin。
伝統と革新を併せ持つ彼らは、そのルーツであるスキーというフィールドを大切にしながら、新しいアウトドアやアスレチック、ライフスタイルといった可能性へと挑戦している。
原点のスキーから紡ぎだす、新しい歴史
1950年に富山県で、メリヤスメーカーとして産声を上げた津澤メリヤス製造所。
その後、ゴールドウインへと社名を改めた同社は、創業3年目にして、いち早くスポーツ産業の萌芽を感じ取り、事業をスポーツウエア専業メーカーへと転進させた。スポーツやフィールドのニーズを満たすべく、ひたむきに良いものを作り続けるDNAは、その後も受け継がれ、現在ではTHE NORTH FACEやHELLY HANSEN、CANTERBURYなど、様々な分野のブランドと共に、ものづくりの可能性を探求し続けている。
こうした歩みの原点として生まれたブランドが、同社のシグニチャーブランドであるGoldwinだ。
戦後間もない頃に発売し、その高い品質が評判になった登山ソックスや、フランス・フザルプ社のスキーウエアなど、ゴールドウイン社の原点とも言えるスキーをフィールドに、新しい歴史を刻もうとする彼らの想いが語られた。
Interview withGeneral Manager新井 元
スキーをベースとした、新しいカテゴリーを確立させたい
スキーをベースとした、新しいカテゴリーを確立させたい
Goldwinというブランドは、スキー以外にも、これまでにアスレチックやモーターサイクルといったフィールドに挑戦してきました。そういう意味では、様々なブランドを抱える会社の姿勢を受け継ぎながらも、一般的なシグニチャーブランドではなく、ゴールドウインが抱える多様なブランドと同じ、独立した歴史を持っているブランドとして存在しています。そして、こうしたものづくりの歴史、様々なスポーツやフィールド、そしてライフスタイルに向き合ってきた1つのブランドとして、スキーというルーツを中心にしながら、Goldwinとしての新しい歴史を作ろうとしています。
例えばスキーウエアは、従来は真っ白なゲレンデに映える、非日常的で艶やかなプリントや柄のものが多かったですが、長い年月、飽きずに愛着を持って使っていただけるように、シンプルかつ機能的なウエアに変えていきました。商品のカテゴリーに関しても、今はスキーウエアだけでなく、日常で快適に着用いただける高機能なライフスタイルアパレルから、アウトドアウエア、アスレチックウエアなどを展開しており、これらの商品群を基に、Goldwinらしいオールシーズンの提案を一つのブランドで可能にしてきたいと考えています。
また、そうした姿勢の表明として、2018年にはロゴも一新しました。アウトドアやスポーツを愛する多くの人々にブランドに共感していただきたいという思いから、このロゴには、スキーの軌跡やスピード感、自然や山のシルエット、そして躍動感やエネルギーの3つのエレメントが組み合わされています。
ブランドとして新しい意志を示すことと同時に、それを体現する代表的なアイテムの開発にも取り組みました。そうして完成したのが、OURANOS JACKETです。 まず、スキーというフィールドは、とにかく気温が低いのが特徴です。さらに、常に動き続けるクライミングとは異なり、極寒の中をリフトに乗って移動したり、滑走する際にも、汗をかく一方で、全身で風を受けるため、ウエアに求められる要件も異なってきます。その中で、高い防風性や保温性、軽量性などを確保しつつ、天候が崩れた時にはそれをシャットアウトすることができる、非常に高いグレードの商品を開発したいと思っていました。
また、Goldwinのシグニチャーアイテムという意味では、素材の機能性だけでなく、細やかな意匠にも哲学やブランドの理念が色濃く反映されています。
たとえば、ポケットを付ける際にできるフロント部分の滑らかな曲線は、スキーの滑る優雅なシュプールライン(*1)になぞらえて、ダイナミックさと優雅さの融合を表現しています。その他にも、貴重品、電子機器類、ゴーグル、リップクリームなど、多様なものを携行するスキー特有のニーズを叶えるために、実際のフィールドでの使い勝手の良さを考え、様々な役割を持ったポケットを搭載していることも特徴です。
このように、OURANOS JACKETの開発過程は、ブランドのこだわりやメッセージを明確にし、収納性などの細やかな配慮や独自性の高いデザインを導き出すことにも繋がりました。スキーで作り上げた収納性は、アウトドアウエアや日常向けのコレクションのデザインにも活かされています。年月を経て、色々な場面で使い込むことによって、自分の生活のシーンに合った使い方を発見できる、Goldwinらしさの一例と言えます。Goldwinは、合理性を追求したフォルムや快適性・利便性と、シンプルで飽きのこないデザインの融合したウエアを通して、価値のある上質なライフスタイルを提案します。
ドイツ語を語源とする、スキーの滑った跡を意味する語。
Interview withSourcing Dept. Product Design Group 2津川 佳代
過酷なフィールドを想定し、綿密に設計されたアイテム
OURANOS JACKETは、ゴールドウイン社の歴史の中で培われた技術と、Goldwinがスキーというフィールドにおいて蓄積してきた知見が組み合わされた、ハイクオリティスキーウエアだが、それだけに商品生産にかかる工程は500超と、一般的なスキーウエアの1.5倍以上にも及ぶ。細部にまで意匠が凝らされたこのアイテムが生み出された過程を、設計部門の視点から語ってもらった。
過酷なフィールドを想定し、
綿密に設計されたアイテム
このOURANUS JACKETは、海外の3000m級の雪上フィールドでも対応できるよう防水性や保温性、透湿性を想定した設計がなされています。そのため、一見すると何の変哲もない部分にも、一般的な構造とは異なる、細部へのこだわりやかなりの工程が注ぎ込まれています。
たとえば、シンプルに見える裏側のダウンパーツですが、高い保温性を維持するために、ダウン層を潰さない構造が必要とされていました。しかし、通常のダウンステッチの縫い方だと、どうしてもこの部分が潰れてしまいます。そこで、このジャケットでは、綿密な計算を経た立体的な構造を採用することにより、ダウンの高さと空気の層の維持を実現し、十分な保温性を確保しています。
その他の特徴的な機能としては、ジャケットの絞りを自由に調整し、素早く快適に身体とのフィット感を高めることができるBOAシステム(*2)があります。これは、一般的にはシューズなどに使われるシステムで、即座に調整できるようアイテムの外側にあるのですが、OURANOS JACKETの場合は、前ポケットの内側にシステムを入れています。その理由としては、BOAシステムのダイヤルから水が浸入することを抑える必要がありました。同時に、システムの操作性やウエアの空気循環をするベンチレーションなどの機能を損なわない設計であることも重要です。BOAシステムが作用するのはジャケットの裏側である一方で、実際にお客様が操作するシステムは手の届きやすい場所にしたい、という制限があり、裏と表を見えないところで一体化した仕組みを考えることが、一番のチャレンジでした。
その他にも、フロントのフラップには裏に接着シートを貼ることで立体感を保ったり、フードがアクティビティの最中にひらつかないように、マグネットが内側に縫い込まれていたりなど、細部に至るまで計算され尽くされた機能が搭載されています。
ダイヤルを回すととで、レースを締め上げ、即座に快適なフィット感を実現するシステム。
Interview withProduct / Design Group GM武藤 宏司
テクノロジーとものづくりの技術の融合、様々なフィールドで蓄積される知見
ゴールドウインの創業の地であると同時に、すべてのブランドの開発のコアとなるこの施設には、
ひたむきなものづくりの姿勢と先進のテクノロジー、そして高い技術を持った職人の技が理想的に調和していた。
テクノロジーとものづくりの技術の融合と
様々なフィールドで蓄積される知見
昔は、製品のほとんどを国内で生産していましたが、現在は、技術やパターンの開発とテストピース製作だけを国内で行い、その後は、海外の工場で量産するというのが主になっています。ただ、OURANOS JACKETのように、特に細かな縫製の技術が必要とされたり、特殊な構造を持つプロダクトだけは、これまで通り、富山で生産までを行います。ここには、モーションキャプチャーや3D CADといった最新のテクノロジーが完備されている一方で、レーザー裁断機や超音波溶着機など、プロダクトを製作する上で必要な機材も常にアップデートされているので、高いスペックを誇ります。
こうしたテクノロジーとものづくりの技術の融合は、テック・ラボの最大の特徴の1つです。以前は、経験を頼りにプロトタイプを製作し、アスリートに実際にフィールドで使ってもらう中で出てくるフィードバックを基に、開発を進めていましたが、現在は、事前にとても高い精度でシミュレーションした上で、フィールドでの検証を行い、最終的な工程でデータと現実のギャップを埋めていきながらプロダクトを完成させることが可能になりました。
この環境の中で、デザイナーや企画担当、そして実際にプロダクトを設計していくチーム全員が、細部にまでこだわりを持って常に新しい挑戦を続けています。その一方で、デザインや機能など、様々なこだわりを追求するあまり、結果的に全体のバランスが崩れ、商品として欠陥につながるリスクもあります。設計の段階での仔細な差が、結果を大きく左右することすらありますが、プロダクト開発に携わる全てのメンバーがお互いの知見を持ち寄りることで、常に最適な答えを追求しています。ゴールドウインには、THE NORTH FACEのように、同じ雪山をフィールドにしたブランドがある一方で、海をバックグラウンドに持つHELLY HANSENや、ラグビージャージのCANTERBURYといった、様々なフィールドで知見を蓄積してきたメンバーもいます。このように、様々なノウハウを持った人たちで構成されているチームで開発に取り組むことができるというのは、大きな強みだと思っています。
Goldwinに限ったことではありませんが、会社全体として「Core&More」という哲学を持っています。これは、極限環境の中でもパフォーマンスを発揮できるハイエンドモデルを作り、その技術を一般に流通するプロダクトにも落とし込むというものです。こうした思想をベースに、過酷な自然環境にも適応できる最高峰のプロダクトを作っているからこそ実現できる、テクニカルな要素と高いデザイン性の融合は、様々なブランドを抱えていることでさらに際立つゴールドウインの特徴だと思います。「ISPO」という国際的なスポーツ用品の見本市で、Goldwinの製品が2年連続で賞を受賞したのも、こうした取り組みからうまれた商品だからと思います。
より良い未来ための、現在の着実な一歩を積み重ねる
これまでのスキーのあり方を変えることはもちろん、人間と自然の関係性やこれからのテクノロジーなど、
彼らが挑むフィールドにはさらなる広がりがあった。
より良い未来ための、
現在の着実な一歩を積み重ねる
サステナブルという考え方に関して、スポーツウエアは他の分野よりも進んでいると思います。OURANOS JACKETでも、グリーンダウンを使用するなど、環境に配慮をした設計を取り入れていますが、ロングライフという意味では、今後は使っているパーツや仕様、構造そのものをアップデートするべきだと考えています。
たとえば、素材の使い方や温かさ、耐久性を考えつつも、使用頻度の異なるパーツを取り外し可能な設計にすることで、プロダクトの寿命を永くしたり、役目を終えた後に、再び素材として再利用できるような仕組みを真摯に、着実に作る必要があると感じます。
サステナブルやエコという言葉が最初に注目を集めはじめた10年ほど前には、デザイン的、技術的な限界があり、どこのブランドでもどこかで妥協をし、同質化したプロダクトが販売されていました。けれども、エコを言い訳にして、デザインや機能を犠牲にするのは、メーカーとして許されないと思うし、現在では可能な表現の選択肢も増えてきたので、全てを両立できるようなプロダクトを作っていきたいと思います。どんなに取り組みが素晴らしくても、多くの人が使わなければ、世界を変えることはできないので、世界にエコやサステイナブルを浸透させるために、より多くの人に愛されるブランドを築き上げていきたいと考えています。
また、人間と自然の関係性という観点では、身体に親和性の高い素材の可能性を探求していきたいです。化学繊維にしても、シルクやウールなど自然界の仕組みを真似しているに過ぎません。なので、Spiberが開発したブリュード・プロテイン(*3)のように、自然を搾取するのではなく、それをゼロから新しいテクノロジーで作ることができる時代が早く訪れることを願っています。
こうした取り組みは、小さな一歩であっても、自分たちの会社だけでなく、未来のための資産となっていくと信じているので、そのために、1つ1つのプロダクトなども含めて、着実に小さなことを積み重ねていきたいです。
微生物を使った発酵プロセスによって生成されたタンパク質を素材とする、構造タンパク質素材。
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Goldwin OURANOS JACKET
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Goldwin OURANOS JACKET
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Goldwin OURANOS JACKET
- INTERVIEW WITHGEN ARAI, KAYO TSUGAWA, ATSUSHI MUTO
- PLACEGOLDWIN TECH LAB, GOLDWIN MARUNOUCHI.
- BRANDGOLDWIN
- Interview date2019.8
OURANOS JACKET
50年以上に渡りスキーと共に歩んできた、Goldwinのシグニチャーアイテム。
日本国内のみならず、海外の3000m級の雪上フィールドでも対応する高い機能性と、
長年培ったゴールドウインのテクノロジーを結集させたハイクオリティスキーウエア。
真実は見えないところにある
DEDICATION TO DETAIL
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THE NORTH FACE VENTRIX
細部に宿る可能性への飽くなき探求
いろいろな知識を組み合わせて、新しい考えや製品を生み出したり、既存の技術をアップデートする可能性を探求するのが僕たちの仕事です。そのため、プロダクトやウエアを開発する際には、使用する素材の知見だけでなく、生理学や運動力学、温熱などの幅広い知識が求められます。
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RWC2019 JAPAN JERSEY
ラグビーの歴史と共に進化し続ける技術
ラグビーという多様性を持った競技の歴史とともに、CANTERBURYというブランドは発展していきました。ものごとの流れには常に必然的な部分があり、CANTERBURYもそれに応える形で、ものづくりを続けていきたいと考えています。
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JAPAN NATIONAL RUGBY TEAM 2023 New Jersey
さらに進化した機能を実現、史上初の再生ポリエステル繊維ジャージー
ラグビー日本代表2023新ホームジャージーの開発コンセプトは「Made To BE TOUGH」。もともとCANTERBURYはラグビー競技と共に歩み、発展してきた歴史があり、「The World’s Toughest Active Wear(世界一タフな活動着)」を理念に掲げ、モノづくりに真摯に向き合ってきました。