DEDICATION TO DETAIL

ラグビーの歴史と共に進化し続ける技術

CANTERBURY
RWC2019 JAPAN JERSEY

The World Toughest
Active Wear

スポーツを通じて、人間性を育むラグビーの歴史と共に歩んできたCANTERBURY。
機能性の代償として、その場限りの耐久性に甘んじるブランドもある中で、「The World Toughest Active Wear(世界一タフな活動着)」を理念に掲げる彼らは、メーカーとして、「ものづくり」に真摯に向き合い続け、ウエアを常にアップデートしてきた。

歴史を超えて信頼される、
卓越した耐久性へのこだわり

すべては極限の環境と対峙するアスリートから始まる

20世紀のはじめ、小さな毛織物工房として始まったある会社が作ったウール100%の靴下やカーディガンは、その高い品質から評判を呼び、羊毛工場をパートナーに迎えさらに拡大した。
その後、ラグビー好きの友人に依頼されて製作したラグビージャージは、その卓越した頑丈さと着心地の良さから、ニュージランド代表チームのユニフォームをサポートするほどまでに信頼を獲得した。
このブランドこそが、後のCANTERBURYである。
時は流れ、ジャージの素材が羊毛から合繊繊維へ変わった現在も、そのクオリティは世界中のラガーマンを支え続けている。
ラグビーの歴史に寄り添い、独自のものづくりの姿勢を育んできたCANTERBURYの歩みと現在の挑戦の姿を、2019年の日本ラグビー代表ジャージの誕生秘話と共に紐解く。

Interview withChief development manager, RWC 2019 Japan Jersey石塚 正行

ものづくりの会社としてのDNAを活かしながら、どのようにラグビーウエアを徹底的に追求できるのか

ISHIZUKA'S VIEW 01

ものづくりの会社としてのDNAを活かしながら、
どのようにラグビーウエアを徹底的に追求できるのか

ラグビーという競技には、どんな人でも同じチームとして参加し、それぞれが異なる役割を持ちながらも同じ考え方を共有し、相手を尊重しながらプレイするという理念から、人を育むための『紳士教育』として世界に広まったという背景があります。このような多様性を持った競技だからこそ、様々な体型やポジション毎のパフォーマンスなど、幅広い要素をカバーできるウエアが必要であり、こうした必然的な流れに応えるように、CANTERBURYというブランドは発展していきました。そして、それらを支えられるだけの頑丈さ・着心地の良さがブランドの『The World Toughest Active Wear(世界一タフな活動着)』という哲学の源泉です。

一方で、ゴールドウインは、ものづくりの会社としてのDNAがあり、それを活かしながら、どのようにラグビーウエアを徹底的に追求できるのかという思いがあります。例えば、ラグビーは1年を通してプレイしますが、特に冬の間は、寒い中でいかに汗冷えを軽減するのかという課題があり、これは、ゴールドウインの他のブランドやフィールドに共通する課題です。その例として、今回の代表ジャージのために、ALPHADRY®︎ Extreme(*1)という素材を開発しましたが、これは元々ゴールドウインによる快適性を追求するための指標で、速乾性とべた付き軽減の両方を実現するために開発したものでした。ただ、ラグビーの場合は、通常のスポーツの2倍以上の耐久性が必要かつ、選手のパフォーマンスを最大化するための軽量性も不可欠でした。こうした快適性と軽量性、そして、耐久性という矛盾する要素を同時に成立させる、他のフィールドでは求められない理想的な性能は、50種類以上に及ぶ素材のテスト(*2)を経て、ついに実現したものです。このように、様々なフィールドで蓄積されたノウハウをウエアに搭載することができるのが、ゴールドウインのCANTERBURYの強みです。

特に、今回のラグビージャージに関しては、ワールドカップという舞台で日本の代表が着るユニフォームなので、ラグビーの元々の考え方と、それを受ける日本人としてのスピリットを、デザインと技術の両方からどのように表現していくのかという考えで作りました。

ALPHADRY®︎ Extreme(*1)
下記3機能をもつ「ALPHADRY-3D」に耐久性を加えた高機能素材。
・【クイックドライ】汗をすばやく吸収して乾かす、吸汗速乾機能。
・【ドライタッチ】肌への接触面が少なく、汗離れが良い素材でべたつきにくい。
・【汗冷え軽減】汗戻りしにくい素材で、肌面はサラサラキープ。
今回の代表ジャージでは、ポジション毎に求められる性能を実現するため、経編みと丸編み、それぞれ異なる編み方で作られたフォワード用のALPHADRY®︎ Extreme FWとバックス用のALPHADRY®︎ Extreme BKの2種類が作られた。
素材のテスト(*2)
2015年ジャージの性能を大幅にアップデートするため、原料の選定や、糸の検討など、様々なレベルでの開発が重ねられた。最終的には、2015年にも生地提供を担当した和歌山の生地メーカーに加え、福井の生地メーカーが新たに参加し、2年越しに完成した。

ラグビーと武士道の精神は非常に親和性の高いもので、それを様々なディティールに落とし込んでいます

ISHIZUKA'S VIEW 02

ラグビーと武士道の精神は非常に親和性の高いもので、
それを様々なディティールに落とし込んでいます

ラグビーと武士道の共鳴細部に込められた日の丸の想い
ラグビーと武士道の共鳴細部に込められた日の丸の想い

まず、デザインに関しては、選手がこのジャージに誇りを持てることが、最も重要だと考えました。ラグビーというのは、とても多様性の高いスポーツで、実際に日本のチームの中でも、覚悟をもって日本代表になることを決めた様々な国籍の選手が活躍しています。彼らのためにも、日本のスピリットを持って世界で戦うことができるという意味合いが込められたユニフォームを作りました。
また、ラグビーの精神を「品位、情熱、結束、規律、尊重」という5つの言葉で規定した、ラグビー憲章と呼ばれるものがあり、この考え方は、武士道の精神と非常に親和性の高いものでした。そこで、これまで日本ラグビーが貫いてきた独自のラグビースタイルである「JAPAN WAY」をコンセプトとした上で、デザインのモチーフには兜を採用しました。

このコンセプトとモチーフは、ユニフォームのカラーや模様など、様々なディテールに落とし込んでいます。例えば、ユニフォームのストライプは兜の前立てをモチーフにしていますが、V字の曲線は、前からは体が大きく、後ろからは実際よりも前を突き進んでいるかのような錯視効果を発揮します。
また、日の丸のストライプのアクセントには、富士山のご来光を表現したゴールドが添えられており、ベースの生地の部分にも「力・ならわし・縁起」を意味する吉祥文様が描かれています。さらに、今回から、エンブレムを3D化し、より立体的に代表選手の誇りを表現したのですが、選手が試合前にこれを掴むことで自分を鼓舞できると好評です。

さらに今回は、こうした代表ウエアだけでなく、大会ボランティアを始めとする運営スタッフの「TEAM NO-SIDE」が着用するユニフォームも作っています。
僕たちとしては、日本を一つにするっていう意味合いで、ボランティアの方の貢献度がワールドカップ自体を成功に導くと信じており、それを支える人たちはとても重要だと考えています。その人たちが快適で、季節が夏から冬に変わる非常に不安定な季節でも笑顔を絶やさずに応援をしてほしいという思いで作っていて、これまでのラグビーウエア開発の中で培った技術も存分に盛り込まれています。

Interview withTechnical Laboratory R&D Marketging Group中村 寿

最も大切なことは、ウエアを実際に着る選手が最終的にそれをどう評価するかです

NAKAMURA’S VIEW 01
世界を舞台に闘う選手のために、機能からデザインに至るまで、細部へのこだわりを可能な限り実現した2019年ラグビー日本代表チームジャージ。ラグビーという激しい競技の中で求められる性能は様々であり、世界中のメーカーやブランドがしのぎを削っている。
そして、その技術の最前線は、富山にあるGOLDWIN TECH LABから生まれているが、その最終工程では、人間の技術と目が重要な鍵となっていた。

最も大切なことは、ウエアを実際に着る選手が
最終的にそれをどう評価するかです

従来のラグビージャージとは異なり、それぞれのポジションに応じたウエアを作り始めたのが、前回の2015年ワールドカップの時からでした。その時は、4種類の異なる素材を組み合わせたジャージをポジションに合わせて2種類完成させました。この開発過程では、ポジション別に選手の体型を3Dスキャンして測定し、実測のボディを製作したのですが、テック・ラボができる以前に製作されたものだったので、計測したデータを十分に活用できたとは言えない状態でした。
当時はまだ3D CADがなかったので、立体的にウエアをつくるという意味では、まだまだ改良の余地がありましたが、2019年のモデルは、最初から3Dデータを基にしたパターンの設計をすることができたというのが技術的には一番大きな特長となります。
たとえば、フロントロウの選手は非常に胸板が厚いので、前回は、胸にダーツを入れて、平面を立体的に仕上げることで対応していましたが、今回は設計段階から、3Dで作ることができたので、立体成型を用いて、生地そのものを変形させることで、さらなるフィット感を実現しました。

ただ最終的にアイテムを作る際には、テクノロジーだけでなく、「現代の名工」(*3)を受賞している、テクニカルセンターの沼田喜四司が最終的な調整をしています。というのも、3Dでスキャンした人間の体は曲面になっているため、実際にウエアを縫うためには、一度平面に展開する必要があります。そのために、まずはデータ上で曲面を100個ほどのパーツに分け、沼田がその細かいパーツを手で組み直していきました。こうすることで、ボディに最も抵抗が少なくなるような形が完成します。ある程度は3D CADでもできるのですが、手作業でしか細かいところまで意識を配りながら作ることはできません。

また、実際の縫製に関しては、縫い目をカバーする特殊なテープを用いるスマートシーム仕様(*4)を用いることで、選手の肌触りをさらに向上させています。

こうした基本的なジャージの設計に加えて、ポジション毎の素材の開発や組み合わせに関しても、前回以上のアップデートがなされています。まずメインの素材に関しては、強度や体に対するホールド感が求められるフォワードと、軽量性や相手から掴まれにくさが求められるバックス、それぞれのパフォーマンスに合わせた2種類の生地を開発しました。

これらの別々の素材をベースに、ポジション毎に必要な機能も追加しています。バックスは、パスなど大きい腕の動作が多いので、脇の下に2wayのストレッチ素材を入れ、横も伸びる仕様になっています。また、肩の部分には、ナノフロントという、摩擦抵抗が非常に 大きい素材を用いているため、スクラムを組んだ時のズレが大幅に軽減されています。さらに、ジャージの胸部にも、グリップ性の高い素材を使っているので、抱えたボールを落としにくくなっています。

いくら素材のスペックや縫い目の強度などのデータを駆使しても、ウエアは着る選手が最終的にどのように評価するかが一番大事です。しかしながら、一般的な開発ではその部分が疎かになっている場合も少なくはありません。そのため、2019年は、前回の2倍ほどのフィードバックの機会を設けました。どんなに開発技術が進歩や進化をしても、そこだけは絶対に外したくないですね。

現代の名工(*3)
1967年に創設された厚生労働省による「卓越した技能者(現代の名工)」表彰制度。卓越した技能を持ち、その道で第一人者と目されている技能者を表彰する。
スマートシーム(*4)
縫い目をカバーする特殊なテープを用いることで、肌面をよりフラット化し、縫い目の嫌なあたりを軽減する、ゴールドウイン独自のテクノロジー。

必然的な流れのその先にある未来のウエアのあり方を探求する

NAKAMURA’S VIEW 02
ワールドカップ毎に、代表ウエアのアップデートを実現し、世界を驚かせてきたCANTERBURY。
しかし、彼らの開発にゴールはなく、極限のその先を見据えた探究心を胸に、すでに次の挑戦を始めようとしていた。

必然的な流れのその先にある
未来のウエアのあり方を探求する

ものごとの流れには常に必然的な部分があり、CANTERBURYもまたそれに応える形でものづくりを続けていきたいと考えています。 例えば、これから取り組みたい課題の一つにテーラーメイドなものづくりとサステナブルがあります。
今回は3種類のジャージを作りましたが、それでもチームが着るものなので、その中での平均値に合わせたサイズ展開になっていました。
ただ、それでは選手1人1人に100%フィットするものは作れないので、パフォーマンスを最大限に発揮するためには、それぞれの体型に従った1点もののウエアを作りたいと思っています。
また、サステナビリティに関しては、再生ポリエステルや余ったジャージを素材として再利用するという方法もありますが、本質的な耐久性を持ったプロダクトを作っていきたいです。
そういった意味でも、現在、Spiber社との共同開発で取り組んでいる新たな構造タンパク質素材(ブリュード・プロテイン)は、必要な量だけカスタムメイドで素材を作れるだけでなく、サステナブルな意味でも理想的なものなので、近い将来、このマテリアルを使ったウエアを開発したいですね。

  • RWC2019 JAPAN JERSEYFRONT ROW

  • RWC2019 JAPAN JERSEYSECOND ROW / BACK ROW

  • RWC2019 JAPAN JERSEYBACKS

Credits -
  • Interview withMASAYUKI ISHIZUKA, HISASHI NAKAMURA
  • PlaceGOLDWIN TECH LAB, CANTERBURY OFFICE.
  • BrandCANTERBURY
  • Interview date2019.8

RWC2019 JAPAN JERSEY

21年前から公式パートナーとして作り続けてきた、CANTERBURYの日本代表ジャージ。長年にわたり培ってきたものづくりの実績と、ゴールドウインの開発技術と様々な匠の技の融合は、世界トップクラスの性能とクオリティの高さを誇っている。2019年の日本代表ジャージは、テックラボが開設してから初めて手がけたものであり、歴代史上最強レベルと称されている。