DEDICATION TO DETAIL

細部に宿る可能性への飽くなき探求

THE NORTH FACE
THE NORTH FACE VENTRIX

Do More With Less

アスリートだけでなく、幅広いユーザーから高い信頼を集め、愛され続けるTHE NORTH FACE。その中でもゴールドウインが手がける、日本独自規格のアイテムは世界中でも高い評価を得ている。
“DO MORE WITH LESS”(「最小限のエネルギー・物質で、最大限の機能を引き出す」)をキーワードに、現状に妥協することなく、常にアップデートを続ける姿勢の裏側に迫る。

すべては極限の環境と
対峙するアスリートから始まる

すべては極限の環境と対峙するアスリートから始まる

登山やトレイルランニング、ライフスタイルシーンなど、様々なフィールドで挑戦を続けるTHE NORTH FACE。
その開発の多くは、過酷な山岳環境の中で限界点に挑むアスリートたちのための「SUMMIT SERIES(*1)」から始まる。
極限のコンディションの中では、ファスナーの位置など僅かな差ですら大きく結果を左右する。
こういった過酷な環境でも理想的なパフォーマンスを発揮できるように、この最上級ラインでは機能やディテールなどが、妥協することなく作られている。
そして、ここで培われた技術が一般向けのプロダクトにもフィードバックされるというサイクルが、THE NORTH FACEの高い品質を裏付けているのだ。

GOLDWIN TECH LABは、こうしたTHE NORTH FACEのストイックな姿勢と高い親和性を持ちつつも、先進の研究設備を駆使して、新しい技術の開発に取り組んでいる。
アメリカのTHE NORTH FACE発祥の中綿素材である「Ventrix」は、こうした協働を象徴するプロダクトの1つとして挙げられる。
テック・ラボがいかにして、この機能素材のアップデートに取り組んだのかを、開発メンバーの1人である木村航太が語る。

SUMMIT SERIES(*1)
ハードコアなアルパインクライミングだけでなく、高所登山、ビッグウォールクライミング、南極遠征など極地への冒険を最高レベルのテクノロジー&レイヤリングでサポートする、頂上アイテム群。世界中のトップアスリートからのフィードバックと、人間の身体や自然環境を徹底的に分析し、集めた数々のデータ。先進のテクノロジー&レイヤリングシステムを高機能モデルとして提案するシリーズ。

Interview withTechnical Laboratory R&D Marketging Group木村 航太

幅広い知識を組み合わせて、新しい可能性を探求するのが僕たちの仕事です

KIMURA'S VIEW 01

幅広い知識を組み合わせて、
新しい可能性を探求するのが
僕たちの仕事です

GOLDWIN TECH LABの中には、基礎研究を行うフューチャー・デザイングループ、新しい商品やサービスを生み出すR&Dマーケティンググループ、そして、アイディアを具体的な形にするプロダクトデザイングループの3つに分かれており、僕はR&Dマーケティンググループに所属しています。
フューチャー・デザイングループが、1つの分野を深く取り組むチームだとしたら、いろいろな知識を組み合わせて、新しい考えや製品を生み出したり、既存の技術をアップデートする可能性を探求するのが僕たちの仕事です。そのため、プロダクトやウエアを開発する際には、使用する素材の知見だけでなく、生理学や運動力学、温熱などの幅広い知識が求められます。

例えば、ウエア内の空気循環システムウルトラベンティングシステム(*2)では、着装シミュレーションソフトと、熱流体のシミュレーション(*3)を行うソフト、その2つを組み合わせた開発手法を生み出しました。
それぞれのソフトを個別に使って商品開発を行っているメーカーはありますが、ここでは実際の生地の硬さや伸びやすさなどのデータを入力し、実際の着装状態に近い状態に対して熱流体のシミュレーションを行っているという点で革新的だと考えています。もちろんこのシミュレーション自体の難易度もありますが、充実した設備を持っているということ自体も、これまでにないプロセスで開発ができた理由の一つだと思います。

ウルトラベンティングシステム(*2)
ウェアの空気循環システム。ウェアやパンツのフロント、サイド、バックに備えた複数のベンチレーションが、ウェア内に幾通りもの通気ルートを作り出し、新鮮な空気を内部に取り込む。さらにシェルをレイヤリングしても、その最大の効果を発揮するよう、インナーとアウターシェルのベンチレーション位置が重なるように設計されている。
熱流体のシミュレーション(*3)
空気の流れや熱の移動などを計算できるツール。着装シミュレーションソフト等と組み合わせることで、身体とウエアの間を流れる空気や生地を伝った熱がどのように移動するのかをシミュレーションすることができる。

初めてコンセプトを聞いたときに、もっと伸ばせる方法があると直感的に思いました

KIMURA'S VIEW 02

GOLDWIN TECH LABでは、様々な技術の開発と同時に、既存の性能に満足することなく、様々な改良のための研究もなされいてる。実際のフィールドでの使用を想定した開発の際に、重要な役割を担うモーション・キャプチャーがあるが、では、実際にはどのような開発を行っているのか。

初めてコンセプトを聞いたときに、
もっと伸ばせる方法があると
直感的に思いました

もう一方のアップデートに関しては、ラボの開設前後で取り組んだ、「Ventrix」がとても良い例としてあります。
元々は、アメリカのTHE NORTH FACEが、クライミングのように、インターバルを挟みながら行うアクティビティの際に、動きやすいように薄着でありながら、休憩中は身体を冷やさないような構造はできないのか、という課題を背景に開発した機能性素材でした。「呼吸をする」という表現がピッタリですが、ストレッチ性のある化学繊維にスリットを入れる事で、動いている時には切り込みが開くことで通気し、動いていない時にはそれが閉じて保温するという仕組みです。

初めてコンセプトを聞いたときに、とても良いアイデアだなと思った一方で、実際に素材を見たときに、もっと伸ばせる方法があると直感的に思いました。そこで、この考えを検証するにあたって、目的を大きく分けて二つ設定することにしました。一つは伸びる部位・場所を知ること。もう一つが伸びている方向を知ることです。つまり、運動のパターンによって、伸縮するウエアの部位が異なるため、この機能をより発揮させるために、モーション・キャプチャーを用いて、最適なスリットの配置を設計するというプロセスを考えました。

実際に使用したのは、光学式モーション・キャプチャーと呼ばれるもので、身体に設置したマーカーが空間のどこにあるのかを座標で記録します。そして、実際に運動した際に、それぞれの座標がどのように動いているのかを計測することで、身体の各パーツの動きが分かるという原理です。「Ventrix」の計測の際には、半身に126個マーカーを貼り、歩く傾斜を変えつつ、普通の歩行やランニング、トレイルラン二ングなど、計4種類のアクティビティを分析しました。こうして記録される、マーカーの位置やそれぞれの距離の変化は、実際に腕を後ろに振った時の胸のあたりの伸び方などの解析につながります。

こうして計測した結果を分析して、実際に製品化するまでを一貫してラボで行うことができるのですが、その中では最初にお話しした、3つの部署が密接に連動します。例えば、人の動きを計測する際には、それぞれのマーカーは正確に位置を計測するために、2台以上のカメラで記録する必要がありますが、そのためには、126個のマーカーと、それら全て正確に写せるカメラの配置を考える必要がありました。こういった計測の方法などの基礎研究的な部分や、解析はフューチャー・デザイングループと協働します。特に解析に関しては、専用のソフトをさらにチューニングアップする形で、マーカーの座標から伸びの方向の転換距離、伸縮率などの色分けをするシステムをプログラミングしていき、適したスリットの数や形状、配置を決めていきます。

こうして出来上がったデータを基に、耐久性やスリットの加工方法など、アイテムのデザインをプロダクトデザイングループや、東京オフィスの企画チームと綿密にディスカッションをしながら実際の製作を進めていきます。

フィールドに寄り添った技術を追求していきたいです

KIMURA'S VIEW 03

到達したゴールに満足することなくさらなる高みを、細部にこだわりながら探求し続ける真摯な姿勢は、創業当時からのゴールドウインが誇る企業理念であった。
創業以来のものづくりのDNAは時代や環境が変わっても、継承され続けていた。

フィールドに寄り添った
技術を追求していきたいです

例えば、歩行やランニングに関する文献や資料がたくさんある一方で、クライミングや登山の際に、身体がどのように動いているのかはあまり知られていません。
というのも、クライミングの壁を登る動きを解析する研究は、その絶対数が非常に少ないんです。
これまでは、計測する機器などの性能から、計測できるアクティビティのバリエーションにも限界がありましたが、今のテック・ラボにはそれにチャレンジするための十分な環境が整っています。
例えば、登山用のザックにはウエストベルトが付いていて、腰に巻きつけることで固定されるような仕様になっていますが、実際にザックを背負ってしまうと、腰に接している部分は固定されるので、そこだけ生地が伸びなくなるのに加えて、動いた時には別の伸び方をするかもしれません。
こういった実際のフィールドでのデータを計測することで、より良いプロダクトを開発できると信じています。また、生地の伸縮だけでなく、フィールドにいる時と同じ装備での筋肉の動きや肺活量など、様々なデータを様々な機器を使って全方位的に計測し、もっとフィールドに寄り添った技術を追求していきたいです。

そういった過程の中で、まずは動きやすさや軽量性を突き詰めたプロダクトを作り、そのコアを日常の中で長く使い続けられるようにしていくのが今後の目標です。

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Credits -
  • Interview withKOTA KIMURA
  • PlaceGOLDWIN TECH LAB
  • BrandTHE NORTH FACE
  • Interview date2019.7

Ventrix jacket

水濡れに強くストレッチ性の高いポリエステル綿にスリットを入れることにより、通気性とストレッチ性を高め、活動時に衣服内の水分を積極的に排出することを実現させたアクティブインサレーション。
元々はUSA THE NORTH FACEによって開発されたが、2017年にゴールドウインによって、独自の規格が開発された。