トップメッセージ

ゴールドウインのアイデンティティを世界に広げ、
地球の再生への貢献を通じた持続的な企業価値向上を実現していきます。

未来の世代に美しい地球を
残していくために

「常識を突き抜ける想像力、世界に貢献する革新的な開発で地球環境の改善を目指す」。これは、2020年の社長就任時、私が企業理念に新たに加えたVISIONの一文です。地球の持続可能性に対する、私自身の強い危機意識を込めています。
長年、ザ・ノース・フェイス事業に携わる中で、The North Face, Inc.の創業者であるダグラス・トンプキンスとケネス・ハップ・クロップからは多くを学びました。1978年にライセンス契約を結ぶ際、ハップから「『ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)』は、あらゆる機会を通じて地球環境保護の大切さを伝えていかなければならない」という信念を聞きました。自然との共生がこのビジネスの根幹にあると理解した瞬間、私の心には澄み切った感覚がありました。
近年、台風や水害、熱波、山火事、干ばつなどの災害は目に見えて増えています。これらの背後に、人間の営みによる自然破壊があることは明らかです。本来、地球の生態系はバランスのとれた循環システムを持っていますが、人間の過度な化石燃料利用や、他の生物を犠牲にした産業がそれを崩してきました。放置すれば、やがては人類そのものの存続すら危ぶまれるでしょう。
植物は、自らの葉や実を昆虫や鳥たちに与え、酸素を供給し、やがては微生物に分解されて土に還り、地球上の循環基盤となっています。人類も、何かを独占する「ストック」の考え方を脱却し、植物のように「利他性」をもった「フロー」の状態へと改め、循環の責任を果たしていかねばなりません。特にアパレル産業は、製品の大量生産・大量廃棄を繰り返し、全産業の中で2番目に多くの温室効果ガスを排出してきました。生態系を犠牲にするビジネスが持続可能なはずがありません。自然と共生する事業により、未来世代に美しい地球を残していくことがゴールドウインの使命であり、私の不動の信念でもあります。

「利他性」を実現するビジネスモデル

ゴールドウインは2000年代初頭から、従来の卸売ビジネスから自主管理の直営店を中心にした「実需型ビジネスモデル」への転換を進めてきました。「機能性が高い製品は、アウトドアの枠を超えて日常使いにも広がっていく」という確信のもと、当社が自らデザインした直営の店舗を開設し、伝えたいブランドの世界観や開発した製品を直接お客さまにお伝えすることにしたのです。
ものづくりから店舗運営、販売に至るまで自社で手掛ける――これは必然的に在庫リスクまで自社で抱えるものでしたが、お客さまとの接点を直接持つことで、ブランド価値を高めながら無駄な製品をつくらず、売り切るノウハウが蓄積されました。そのノウハウを卸先にも共有することで、お客さまは欲しい製品をいつでも購入でき、お取引先は在庫リスクを避けて収益を確保できるようになりました。
「デザインする」という言葉は、さまざまな課題を解決する手段を生み出すという意味でも捉えられると思います。誰かが利益を独占するのではなく、関係者すべてが相互作用の中で果実を得る「利他性」を育み、最少の資源で最大の効果を得るビジネスを「デザイン」してきたのが、この20年間のゴールドウインの歩みだったと自負しています。

見えない価値に重きを置く
長期ビジョン「PLAY EARTH 2030」

創業者が残した言葉の中に、「目に見えないものにこそ、『真実』の価値がある」というものがあります。海外でもご理解いただけるよう「Dedication to detail」と表現するこの言葉を、私はとても大切にしています。もともとは、機能性の追求のために素材から徹底的にこだわるという意味ですが、私はものづくりを超えて、社会全体に「目に見えない豊かさ」を提供していくことだと考えています。
「ザ・ノース・フェイス」はパフォーマンスカテゴリーを起点に、ライフスタイル、ファッション領域でもブランド認知度を高め、幅広い層のお客さまの支持を得てきました。成功の要因は、ブランドの本質的な価値を丁寧に伝え続けてきたこと、市場の要求が顕在化する前のかすかな兆しを見極め、「目に見えない価値」を提供してきたことにあります。例えば、「ザ・ノース・フェイス」の店舗は、すべてのアイテムを揃えるのではなく、お客さまの嗜好やこだわりに合わせた店舗展開を行っています。ECを組み合わせ、より個別ニーズに沿った製品を提供することで、お客さま一人ひとりとの関係を深めながら、販売ロス率も低減させています。
「Dedication to detail」を追求し、ゴールドウインが新たな社会的価値を創造すれば、それは自ずと経済的価値をも創出し、企業価値の向上につながるでしょう。こうした想いを落とし込んだのが、長期ビジョン「PLAY EARTH 2030」です。資本主義のシステムによって危機に瀕した自然の再生に向けて、環境と事業の両面でのサステナビリティを追求しています。
ゴールドウインは、実需型ビジネスモデルを絶えず進化させ、一定の成果を得てきました。しかし、「PLAY EARTH 2030」の下で、より広い視野から社会課題に取り組み、自然と共生するビジネスを創造していくためには、既存の価値観を打ち砕くような革新的なアイデアが欠かせません。「PLAY EARTH 2030」では、従来の枠を超えて、ビジョンを共有する仲間と利他の精神で協力し合えるエコシステムを「デザイン」していきたいと考えています。

「Goldwin 0」が掲げる
循環・越境・共創のコンセプト

「PLAY EARTH 2030」のもと、2021年度より推進する5カ年の中期経営計画では、資本生産性とサステナビリティをともに高め、財務目標と非財務目標の両立を目指しています。計画の一丁目一番地となるのは、オリジナルブランドである「ゴールドウイン(Goldwin)」ブランドの育成です。
これまで当社が十分にアプローチできていなかった海外市場への挑戦は急務となっています。ゴールドウインブランドをけん引役に、地球環境との共生を図る当社のビジョンへの共感を世界に広げていきたいという想いもあります。2021年12月には、3店舗目の海外直営店として「ゴールドウイン 北京(Goldwin Beijing)」をオープンしました。コロナ禍による遅れを取り戻し、今後はゴールドウインブランドの価値創造をグローバルに加速していきます。
2022年3月に発表した「Goldwin 0」には、未来に向けて3つのコンセプトからゴールドウインブランドを描きました。1つ目は「Circulation(循環)」であり、人間社会も地球の生物圏と同様に、循環システムを形成していく必要があるというメインメッセージです。2つ目の「Borderless(越境)」は、国境を越えてこうした利他的なつながりを広めること、そして3つ目の「Co-Creation(共創)」は、多様な人々や文化、地域と共にこれらのアイデアを実現することです。
発表以降、「Goldwin 0」は記録的な売上高を達成し、国内外で若く感度の高いお客さまから支持を得られたのは大きな収穫でした。製品のストーリーを明快に表し、倫理的・機能的で美しいプレミアムブランドとしてのポジションを目指していきます。
2022年には、バイオベンチャーのSpiber株式会社との8年間の共同開発を経て、化石資源に依存しない植物由来の構造タンパク質繊維「Brewed Protein™」の量産体制が整いました。この新素材を使用した製品をグループのさまざまなブランド横断的に展開し、2023年9月にはグローバル市場で大規模なキャンペーンを実施しました。これはまさに、「Goldwin 0」の3つのコンセプトを具現化した取り組みと考えています。2030年には、環境負荷低減素材を使用した製品比率90%を達成すべく、現在、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の仕組みも活用しながら、Spiber株式会社以外にも多様なパートナーとの共創を深めています。

「翔ぶ意識、ロマンを求めよ」

当社は、「PLAY EARTH 2030」で掲げた事業と環境におけるサステナビリティの実現に向けて、創業の地である富山で「PLAY EARTH PARK NATURING FOREST」の2026年開業を目指しています。広大な土地で自然に親しみ、スポーツの原点を体験できる場を地域の方々と共創する取り組みです。持続可能な社会の実現に資する事業推進により、ゴールドウインの社会的価値と経済的価値は自然とつながっていくと信じています。
私は「ザ・ノース・フェイス」に携わりたいという一心で当社に入社し、それ以来、ブランドを愛し、自然を楽しむことを通じて、「創造的」であり続けることを大切にしてきました。社員とも「仕事と遊びに境界を引かない」という表現でこの価値観を共有しています。本気で地球環境の再生に挑戦する中、社員一人ひとりが常識を突き抜ける想像力で、無限の創造力を解き放っていくことが、当社のサステナビリティの基盤になると考えています。
創業者は、「翔ぶ意識、ロマンを求めよ」とも言っていました。ロマンは現実とは遠く離れたものかもしれませんが、人にも企業にも大きなロマンがない限り、壮大な構図を描けないということです。ゴールドウインが目指す未来も「そんなことができるはずがない」という疑念を呼ぶかもしれません。しかし私たちは、事業を通じた地球環境の再生というロマンを持ち続け、幅広いステークホルダーの皆さまとともに、真正直にその実現を追求し続けます。

2023年10月

代表取締役社長
渡辺 貴生

代表取締役社長
渡辺 貴生